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コラム

更新日:2009.12.24

世界の墓地を訪ね歩く?

ひとはいつから死を身近に感じるのでしょう。私の場合は、母の死。ただ、死は日常のなかでは非日常であり、忙しさのなかでときとして大切な人を失った痛みも忘れます。ところが、墓の前に立つとき、わたしは幼い頃に戻り、母の忙しく立ち働いている姿をひととき思いだします。何度か墓に足を運ぶうちあるときから、葬儀、お墓というものは、残された者のためにあり、また、故人の意思というより社会に規定されてきたのだとも思うようになりました。ただ、そのあり方も社会の変化とともに変わるのでしょう。
世界各地それぞれに、宗教・風土にもとづいたその地特有の葬送儀礼・墓地があります。たとえば、インド。ヒンドゥー教徒による火葬・水葬、イスラーム教・キリスト教徒による土葬、ゾロアスター教徒による鳥葬と多様で、とりもなおさずインド社会の多様さをしめしています。
世界の葬送・墓地』はまず I 部で、気候風土による違い、宗教による違いを聖典(経典)をもとに紹介します。次に II 部で、イタリアからはじまりヨーロッパ7カ国・アメリカ、ネパールにわたり、最後に III 部中国の葬送・墓制へと法制度を詳解します。各国の葬送・墓制の違いを知ることのおもしろさはもちろん、世界を旅していることにきづくでしょう。グローバル社会といえども、世界は本当にひろいですね。
III 部中国では、960万キロ平方メートルの広大な地を、まるで墓を訪ね歩いているようです。また、墓を訪ねながら中国4000年の歴史をたどります。政治制度が変われば葬送儀礼も変わります。墓も変わります。有史前期原始社会以来ともいわれる火葬が、儒教思想にもとづいた封建社会では禁止され、逆に中華人民共和国建設後は近代化とともに推進されてきました。また、きわめて政治的なこの国にあって、55の少数民族の墓制・墓政策もまたきわめて重要な少数民族政策のひとつです。
最後に、この本にはもう1つの楽しみがあります。全編に散りばめられた世界各地の墓の写真です。アテネの共同墓地はあたかもギリシア彫刻をみるようです。ウィーンにあるオーストリア中央墓地はヨーロッパの歴史を、逆に、アメリカのアーリントン墓地の整然さは、この国の歴史の新しさを物語っているようです。私が特に心ひかれたのは、敦煌の墓。広大な自然のなかに溶け込んだ円錐状の墓は、生が永遠であるかのように感じさせます。いつしか私は、この地に立ち、たおやかな気持ちでこれからの人生に思いをめぐらし、それに連なる死後の世界を想像しているのです。


世界の葬送・墓地

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