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コラム

更新日:2013.10.2

死刑制度がなぜ日本で支持されるのだろうか?

―『刑事裁判のいのち』を読んで

刑事裁判のいのち』は、元東京高裁刑事総括判事で最高裁調査官も経験された木谷明さんの刑事裁判官人生を振り返った慈訓に満ちた論考・講演・エッセイ集です。

とりわけ、興味深かったのは、死刑制度に関する話です。III「刑事裁判と命」のなかで(ここ以外にも出てきますが)、木谷さんは、最初から死刑問題に確信的に反対を唱えてはいなかったといいます。その転換への大きなきっかけは冤罪問題だったとのこと。とくに飯塚事件(本書参照)は、死刑執行後、DNA鑑定で冤罪である疑いが濃厚であったことがわかった事件だそうですが、「冤罪事件の死刑執行は取り返しがつかない」ということで、確信的な死刑廃止論者になったそうです。

ところで、内閣府の統計は、日本の死刑支持率は80%だと言っています。しかし、質問を変えた調査をしたら支持80%は崩れるかもしれませんね。たとえば、「死刑執行人の市民からの選任制度ができてあなたが選ばれたらどうしますか」という質問を入れるとか…。当事者として関わらない遠くのことは痛みを感じないということもあるのではないでしょうか。

日本と同じく治安のよいノルウェー(死刑制度なし)と比べ、日本で死刑存置論者が多いのは、うがった見方ですが、法文化(予断をもたない手続的正義の思考の未成熟)・刑罰文化(応報刑志向)・国家司法観(お上は正義の意識)の違いがあるかもしれません。

ただ、そこに儒教的倫理観という通奏低音が流れているとしたら、死刑支持論にはもっと根深いものがあるのかもしれません。

他にも、ブラックボックスたる検察の問題性・改革などの一端がわかる「強すぎる検察」論にも大いに啓発されました。

素人考えですが、根本的な疑問として、刑事裁判に検察官がなぜ必要なのか、弁護士が選任制で検察を代替できないのか(法曹一元化)、と感じました。

そうでないと、検察の公訴・起訴権の独占、起訴便宜主義、など、検察のさじ加減ひとつで起訴・不起訴が決まってしまいます。そのチェック機能のひとつとして検察審査会制度はありますが、チェック機能としては弱いのではないのか…などなど。いろいろと疑問が湧いてきます。

「裁判員制度」「取調べの可視化」など、ブラックボックスから一歩抜け出そうとしている刑事裁判に興味のあるかたに、ぜひおすすめしたい本です。

(秋山) 
刑事裁判のいのち

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