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ナガサキからの平和メッセージ
2008年11月に韓国在住被爆者388人が日本政府を相手に各地で集団訴訟をおこしました。原爆が投下されてから63年の月日が経ついま、なぜ在外被爆者による集団訴訟がおこされたのでしょうか?
広島・長崎での原爆投下による全被爆者のうち1割以上いたとされる韓国・朝鮮人をはじめ、多くの外国人が被爆しました。母国へ戻った多くの被爆者は、日本を離れることにより、同じ被爆者であるにもかかわらず補償を受けられずにいました。
特に1974年に厚労省より発せられた402号通達によって、在外被爆者が来日して手続きを行っても一旦出国すると受給資格を失うこととなるなど、長年に渡って権利を奪われてきました。
今回の集団訴訟は、被爆者の高齢化だけではなく、多くの訴訟を受けて、状況が変化したことによります。
まず、2002年の在外被爆者への平等待遇を求める訴訟(この大阪高裁判決が確定したのを受けて、国は402号通達を廃止)をはじめとして、被爆者がおこした多くの裁判で勝訴し、さらに2007年の最高裁では、この通達の違法性が確定したことが挙げられます。
次に、「被爆者援護法」改正(2008年6月)により訴訟への原告の「来日用件」が撤廃されたことも大きな変化です。
最後に、すでに厚労省が、日本にいないことを理由として手当を受給できなかった在外被爆者には、国家賠償請求訴訟を起こし裁判所が事実認定した場合に和解手続きを行い、慰謝料を支払うことを表明していることも挙げられます。
さて、『ナガサキから平和学する』は、最後の被爆地である長崎を題材に<平和>について考える平和学入門書として刊行しました。
本書では、上で触れた在外被爆者が受けた差別待遇だけでなく、被爆の実態を科学的な観点からだけでなく文学的な観点からもリアルに捉えるなど多角的な提示を試みています。そのほか、長崎が軍事基地や軍需工場を保有し先の戦争に深く関与してたことや、16世紀以来の長崎独自の文化的多様性とその一方で「隠れキリシタン」の存在に象徴される差別や暴力の問題を抱えいてたことなど長崎独自の平和問題にスポットをあてています。
さらには、高校生が主体的に「核兵器撤廃」をもとめて一万人署名活動をおこなっていることや、長崎の学校内での平和教育の先駆的な実践例を紹介し、今生きている私たちは「戦争責任」でなく将来に平和な社会を創り出す「平和責任」を担っているという哲学的な提言をし、未来への平和創造の視座を提示しています。
市民一人ひとりが平和を生み出す主体となるための<ヒント>と次世代への<メッセージ>を発信しています。皆様へご一読をお薦めいたします。
*なお、在外被爆者が歩んできた長く険しい道のりについては、本書の6章、9章にて詳述されています。
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