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コラム

更新日:2009.2.26

「貧困」をどう捉えるか

世界的な大不況が叫ばれる昨今、日本においても「貧困」という言葉がブームのように語られています。派遣労働者の派遣切り、働けど働けど豊かにはならないワーキングプアなど。これが国民的人気を誇った小泉政権による新自由主義政策に基づく自己責任論がもたらした一つの帰結でした。
2008年から2009年にかけての年越しで、最も世間の目耳を集めたのは、NHK紅白歌合戦でもなければ、格闘技の中継でもなく「年越し派遣村」だったのではないでしょうか。かつては自分とはかかわりのない怠け者の象徴とされた「ホームレス」。身を切るような寒さのなかでの路上生活は、いかなる人間にとっても耐え難い現実です。クリスマス以降の華やかで慌しい街を行き交う人びとの視線が、彼らの心を突き刺すように鋭くえぐります。
派遣切りやワーキングプアという問題は、「ホームレス」問題がどこかの街の片隅で起こる出来事ではないという危機意識を芽生えさせました。そのような状況のなかで、年末年始を屋根のあるところで過ごすことができように行政へ働きかけ、実現させた湯浅誠さんたちの「やさしさ」は、貧困という不安におびえる人びとの心をつかみました。
日本における貧困世帯の量的把握』。このタイトルを見たみなさんの多くは、「貧困」という言葉から「ホームレス」やワーキングプア、派遣切り、年越し派遣村等を思い浮かべたかもしれません。しかし、本書における貧困理解は、直接、これらの言葉とは結びつきません。ここでいう「貧困」は、貧困という不安へおびえる不安定・低所得層を指しているのです。
本書は、貧困量把握への方法論の考察のほか、かつて学界において大きな反響を呼んだ江口英一教授の1972年東京都中野区の貧困量調査の結果およびその後の調査結果を踏まえ、そのような人びとの不安の実態を統計的に明らかにしています。貧困は目で見ることができません。この概念を可視化する一つの方法論として、江口英一教授たちによる調査が意味をもちます。この調査では、1972年にも貧困世帯が多く確認されたのです。高度経済成長期を経た豊かな時代として認識されていた日本においての話です。むろん、時代によって貧困の概念は変わります。ですが、そうであるからこそ、豊かな時代の貧困研究は意味をもつのです。本書において、川上昌子教授は「社会的排除」を中核に据える現在の貧困論に疑念を呈しておられます。現在の貧困論とは異なるアプローチをとる本書は、この種の議論に一石を投じることになるかもしれません。

(文責:掛川)

日本における貧困世帯の量的把握

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