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オバマ政権は「対テロ戦争」法制をどのように運用していくのか
パスポートと航空券(乗船券)だけでは、アメリカ合衆国(以下、米国)へ入国できなくなったことをご存じでしょうか?2009年1月12日より電子渡航認証(ESTA*)が義務化され、米国への渡航者(ただし90日以内の旅行)は、航空機や船に搭乗する前にオンラインで渡航認証を受けなければならなくなったのです。これは、米国国土安全保障省が管轄省であることに象徴されている通り、テロリストの米国への侵入を阻止することを目的とした新たな入国管理法制の施行と言えます。
さて、『《9・11》の衝撃と「対テロ戦争」法制−予防と監視』は、《9・11》以後の米国の「対テロ戦争」とトランスナショナルな安全保障法制の不可逆的な構造転換を検証しています。「対テロ戦争」法制下で展開した、愛国者法、国土安全保障法、外国情報活動監視法(FISA**)による電子監視検証およびテロ情報共有システムの実証的な解明を試みるなかで、「安全」と引き替えに、近代立憲主義や人権を手放してもいいのかを問うています。
米国は、「対テロ戦争」法制の整備のもとで、テロに対する対外的な武力攻撃や予防戦争およびテロリストの監視・排除するための国内的な治安・監視体制を構築しました。この法制の特徴として、「脅威」を排除するための予防的対応が挙げられます。対外的には、「将来の脅威の可能性」を排除するための予防戦争を、また国内的には、徹底的な監視のもとで疑わしい者を司法手続を経ることなく拘束・排除することができるようになったのです。
また、本書では、《9・11》以前と《9・11》以後の位相を検証するために、レーガン政権からクリントン政権にかけての時期の対テロ法制の展開過程を検証し(第2章)、《9・11》以後に制定・改正された対テロ法制を俯瞰します(第3章)。《9・11》以後の「対テロ戦争」法制の拡大・強化は、《9・11》以前の特に民主党クリントン政権期に準備されていた法制の延長線上にあることをも実証的に明示します***。
クリントン元大統領と同じ民主党出身のオバマ大統領が、「対テロ戦争」法制をどのように運用していくのか。オバマは、すでにイラクからの撤退や拷問禁止を宣言していますが、不可逆的とも言われる「対テロ戦争」法制のもとで、どのような安全保障政策を導くことができるのでしょうか。イラン、パキスタン等と再燃している敵対的な関係や、出口が見えないイスラエルとパレスチナとの紛争等々、安全保障に限っても一筋縄では解決できない山積みされている問題を前に、いま新大統領としての手腕が問われています。
米国および世界の安全保障の行方および立憲主義と人権のあり方に関心のある皆様へ本書の一読をお勧めします。
- *ESTA:Electronic System for Travel Authorization
- **FISA:Foreign Intelligence Surveillance Act of 1978
- ***ポール・ロジャーズ著『暴走するアメリカの世紀』 (2003年、小社刊)では、クリントン政権も含め、戦後の米国が「帝国」へと変貌を遂げるまでの安全保障の全貌がわかる。
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