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コラム

更新日:2010.2.4

<事実>を大切に

2008年6月、東京の秋葉原でトラックが歩行者天国に乗り込み、17人を無差別に殺傷したというショッキングな事件が報じられました。被疑者が元派遣社員であり、犯行動機の一端にいわゆる派遣切りを危惧していたという事実が切り取られ、格差社会が生んだ悲劇として語られることになりました。この事件は、2010年1月、東京地裁で開かれた初公判を受けてふたたび世間の耳目を集めています。時同じくして、この惨劇の現場からほど近い神田末広町会では、16台の防犯カメラを設置し、<安心・安全まちづくり>を遂行するというニュースが報じられました。防犯カメラを設置し、成果をあげて客足を取り戻したいという町会長のコメントは、心からの願いなのでしょう。

「安心して暮らしたい」「安全に暮らしたい」という気持ちはだれしもが有する感情なのかもしれません(ただし、「安心」と「安全」とは簡単に一括りにできる概念ではないということに注意)。しかし、カメラを設置することで、防げる犯罪などあるのでしょうか。本当に、安全・安心なまちをつくれるのでしょうか。人びとが正しい情報に基づいて判断することを援助する国際的非営利団体であるキャンベル共同計画による成果検証によれば、防犯カメラがその言葉どおりの成果を発揮するのは、車上荒しについてのみであり、その他の犯罪には意味をなさないといいます。つまり、多くの場合、<防犯>ではなく、たんに<監視>でしかないということです。

まちにカメラを置いてつねに録画するということは、わたしたちの行動がつねに記録され、監視されるということです。防犯効果がないにもかかわらずカメラを設置することで得られる安心・安全とはいったい何なのでしょうか。そもそも、その原因となった不安は、<無差別に>なされた殺傷事件にあったと診るべきです。<無差別に>に殺傷事件を起こしてしまった人間の犯罪を防ぐためにカメラを置いて、それが防げるのでしょうか。その答えは、キャンベル共同計画の成果を参照するまでもなくあきらかでしょう。

とりわけ人びとを何らかのかたちで制約する政策や方針を立てるさい、その政策や方針は当然に事実に基づいていなければなりません。そのためには、入念な調査が必要です。調査には、統計的な分析がなされることを前提としたアンケート調査や、聞き取りの分析を前提としたインタヴュー調査など、さまざまな方法があります。『質的調査の方法―都市・文化・メディアの感じ方』は、後者に代表される事象の質的な側面に着目した調査の方法を紹介しています。第一線で活躍する著者らが、これまでの経験に基づき、失敗談をも含めた調査のコツをおしげもなく披露してくれています。正しい事実認識に基づいた政策・方針をたてるためにも、その判断をするためにも必読の書です。


質的調査の方法

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