- TOP
- > コラム
DCFR(共通参照枠草案)の全体像がわかる翻訳書、ついに刊行
本書は、「ヨーロッパ私法に関するモデル準則(DCFR)の概要版(Outline Edition)」の翻訳であり、「ヨーロッパ契約法原則(PECL)」を引き継ぎ、民法特に財産法制(債権法・契約法)全般にわたる〈規定〉=準則を提案するものである。
DCFRとはDraft Common Frame of Reference の略記である。
まず、荘厳な装丁がすごい!総頁540頁の大著。索引は原書索引と日本語索引の両方で100頁あり、便利である。構成に原則、定義、草案、とあるが、全体の構想・内容は、学術的に高度に考え抜かれたものであることが一目してわかる。
つぎに目次を見てみると、その構成に感服させられる。
また、長い書名と著者(編者)11名、監訳者6名(これらの方は著名なので存知ているが)は、欧文表記も含め一読では覚えきれない。
確認のため、書誌データを復唱してみよう。
- *書名
- 『ヨーロッパ私法の原則・定義・モデル準則 共通参照枠草案(DCFR)』
- *編者
- クリスティアン・フォン・バール/ エリック・クライブ/ ハンス・シュルテ-ネルケ/ ヒュー・ビール/ジョニー・ヘレ/ジェローム・ユエ/マティアス・シュトルメ/シュテファン・スワン/ポール・バルール/アンナ・ヴェネツィアーノ/フレデリィク・ツォル
- *監訳者
- 窪田充見・ 潮見佳男・ 中田邦博・ 松岡久和・ 山本敬三・ 吉永一行
いま、日本では、債権法(総則・債権総論・契約法)改正が大詰めを迎えている。
その中間試案の目次構成と見比べて見ると、いくつかのことがわかる。
一般原則論に関する考察・定義が充実していること。これは、複雑化し、グローバル化する市場社会・取引社会では、逆に一般原則の考察とそれに基づく一般準則が重要になるということだろうか。
さらに、モデル準則は、ますます盛んになる電子取引・ネット取引を念頭に、民商事法の境界が曖昧になることを見越し、グローバリゼイションを意識した規定が置かれているように思われる。
日本の債権法(中間試案を含めて)に比べ多くの典型契約が規定されており、また規定内容が詳しいのはなぜだろうか。これはまた、おいおい勉強してみよう。
DCFRのようなモデル・ローであっても、制定法のような法源性はないものの、法源に準ずる参照性があるという説もあり、現実に条項が参照されているケースもあると聞く。
少し前までは、グローバル社会にともなう国際共通私法・訴訟法の構想(統一法構想)が一部で強く提唱された時期があった。それが、次第に、各国の法文化の違いからいっても、まずは調和・調整(ハーモナイゼイション)から出発するのが現実的ではないか、と言われるようになった。
管見であるが、DCFRは、調和・調整路線に近いが、もうひとつの道をゆく「学術的な目的をもつモデル準則を使ったゆるやかな法源統一構想」ではないかと思料する。
いずれにしても、本書は、日本の今後の債権法改正論議に(改正後の学説・実務にも)必ずや役立ち、参照枠となる研究者必携の書であることは間違いない。
<前のコラム | 次のコラム> | バックナンバー