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コラム

更新日:2009.12.1

核は廃絶できるか

2009年のノーベル平和賞は、オバマ米大統領が受賞しました。
「核のない世界」を訴えた4月のプラハでの歴史的な演説が高く評価されたからだと見られています。オバマ米大統領は、この演説で「核保有国として、核兵器を使用したことがある唯一の核保有国として、米国には行動する道義的責任があります。米国だけではこの活動で成功を収めることはできませんが、その先頭に立つことはできます。」と述べ、率先して核軍縮へのリーダーシップをとることを宣言しました。

一方、日本では、この機を逃すまいと、広島市と長崎市が、2020年の夏季オリンピックへの共同開催の誘致へ向け、名乗りを上げました。じつは、この年には意味があるようです。両市が主導で進めている「平和市長会議」が、世界中の核兵器を2020年に完全に廃絶するための「2020ビジョン」を掲げ、世界へ働きかけを行ってきたからです。

いま、世界は核軍縮を受け入れうる環境にあると見ることができるのかもしれません。では、ほんとうに核軍縮の機が熟してきたと言えるのでしょうか。また、私たち人類は、このチャンスを活かし、現在2万発以上ある核弾頭を完全に廃絶することができるでしょうか。

ところで、冷戦期に抑止力としてその「役割」を果たしたとさる核が、ポスト冷戦期に「役割」を失ったのでしょうか。たしかに、冷戦後、1995年の核不拡散条約(NPT)再検討会議により、表面的には核不拡散体制のもとで、核軍縮が進むように見えたのですが、水面下では、不拡散体制とその体制を破綻へ向かわせる北朝鮮・イラク・イスラエル・リビアなどの動向とが拮抗していたのです。その数年後の1998年に起きたインド・パキスタンの核実験は、世界を揺るがせました。さらには、2001年の「9.11」の衝撃を1つの機に暴力が世界を連鎖し、世界中が混沌としていくとともに、残念ながら、核が拡散する時代に突入していったのです。

水本和実著『核は廃絶できるか−核拡散10年の動向と論調』(2009年11月新刊)は、核廃絶への機運が高まった2009年までの核が拡散した10年を各年毎に実証的に分析・整理しています。核問題についての世界の動向と論調を丹念に読み解く作業によって、核を取り巻く世界のダイナミズムが概観できるだけでなく、今後の核軍縮の展開を見る視座を提示しています。広島平和研究所(広島市立大学)に所属する著者が、与えられた職務を十二分に発揮することで完成した本書は、核やそれを取り巻く国際関係に関心のある方はもちろん、平和を願うより多くの読者の皆様にご一読をお薦めいたします。


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