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「ユーロ危機」をどう見るか
一時、1ユーロが109円台半ばまで下がりました。5月20日のニューヨーク為替相場をはじめとして、5月25日の東京市場・ロンドン市場もそれに追随して、世界的な全面安となったようです。これは2001年11月以来約8年半ぶりのユーロ安更新とのことです。ギリシャの財政危機を発端にはじまった欧州経済への不安は、世界の株式市場をはじめ金融市場を冷え込ませ、いまや「ユーロの危機」とまで報じられています。
「ユーロ危機」の遠因は、2008年の米国でのリーマンショックを端緒にはじまった世界大不況と見られています。私たちは、数十年前に比べどこかの国の経済動向が世界へ影響を与えやすくなっていることはなんとなく理解しています。しかしながら、各国経済と地域経済の相互関係や実体経済と金融・証券市場の相互連関の仕組みやその機能についてどの程度理解できているでしょうか。外国旅行やモノの輸出入の場面を想定しての<損得>ならば、誰かに尋ねられても答えることができるかもしれませんが、世界の経済・金融にかかわることについては、どうでしょうか?
たとえば、ギリシャの危機を救うためにEU各国および欧州中央銀行が多額の資金提供を宣言したにもかかわらず「ユーロ危機」がおさまることなく、なぜ逆に悪化しているのかと問われたらどうでしょうか(→ギリシャ政府に対しては相当額の資金供与がなされる予定ですが数年後に必ず全額の返済を迫られるため、その返済遂行能力に対して世界中から不安を抱かれているということと、それを背景に機関投資家が外国為替市場でユーロで儲けることを画策した結果だと見られています)。
さらに、国名の頭文字をとってPIIGS(ポルトガル・アイルランド・イタリア・ギリシャ・スペイン)と嘲笑されている国々の財政問題がいまなぜ注目されているのでしょうか(→これらの国の国債をヨーロッパの各国の主要銀行が抱え込んでいるがために、PIIGS財政がギリシャのように表面化すれば、欧州全体のさらなる不信を導き出し、それが世界の経済・金融市場を今以上に落ち込ませることとなると注視されているわけです)。
ところで、各国の実体経済の実数を端的に示すのが世界の貿易額となりますが、なんとその貿易額の約6倍もの規模で、世界規模で金融取引がなされていることに象徴されているように、いまやグローバル経済を金融が大きく左右する時代を迎えています。今春刊行した国際金融に関する概説書である『現代国際金融(第2版)』は、そもそも国際金融がどのようなしくみであり、実態経済を踏まえどのように機能しているのかを概観し、その動態のダイナミズムを捉える視角を提示しています。第I編にて基礎概念や理論を概説し、第II編にて複雑化する国際金融のアクチュアルな諸問題を、特に08年に世界大不況を迎えるに至った背景や展開を踏まえわかりやすく詳述しています。
この本を通読することにより、<損得>以上に経済・金融のしくみについて説明ができるようになるだけでなく、「ユーロ危機」や日々の経済・金融報道の裏側が読めるようになるでしょう。瞬時に情報やお金が世界を飛び交うグローバル社会のもとで、いまや実態経済を陵駕する国際金融の仕組みや動向について、その概観を頭に入れておくことは、これからの時代を生き抜くためには大切なこととなるでしょう。本書は、大学生だけなく、社会人も含め広い層の読者の皆様へ一読をお薦めいたします。
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