- TOP
- > コラム
世界遺産学への招待
平泉と小笠原が新たに世界遺産登録されるというニュースは記憶に新しく、震災後、世界に報じられた日本の明るいニュースの一つであるといえるのではないでしょうか。6月19日から開催される世界遺産会議にて、正式に決定・登録されるということです。
平泉で推薦されたのは、金色堂のある中尊寺など、平安時代末期に東北地方で繁栄した奥州藤原氏4代らが独自に発展させた黄金文化遺跡群で、浄土思想を具現化したものとして評価されました。小笠原諸島は都心から約1000キロ南にあり、南北約400キロにわたって大小約30の島々が連なっています。自衛隊基地がある硫黄島や、父島母島などの居住区域などを除いた陸域6360ヘクタールと海域1580ヘクタールで、「東洋のガラパゴス」といわれる独自に進化した生態系が特徴です。
平泉は岩手県にありますが、幸いにも震災の影響は少なく、美しい姿を維持しているそうです。一方で世界遺産ではありませんが、日本三景の一つ、国宝瑞泉寺のある松島はその珍しい地形と松林が幸いにも津波の衝撃を和らげ、被害は他の周辺地域に比べて少ないものの、破損や損傷が見られます。
文化財、文化遺産といわれるものの多くは近代以前の建造物や遺跡が多く、また自然景観との融合でその価値が語られます。長い歴史のなかで地震や台風といった自然災害の影響を大きく受け、被害と修復を繰り返してきたものも多く、さまざまな自然災害や火災からそれらを守り、未来へと受け継いでいくことは現代に住む我々の使命であるといえるでしょう。
『世界遺産学への招待』はユネスコ40年の変遷をたどりつつ、ユネスコが文化の価値をどのように定め、どのように保護に取り組んできたかを学ぶのに最適な書籍です。これは別に世界遺産だけに限った話ではなく、文化財にも同様のことがいえると思います。
本書によると、文化遺産には5つの脅威があるといいます。先にも述べたような①地震や台風といった自然災害や、風、雨による侵食といった劣化。②紛争や戦争といった人災。③都市の発展とともに避けては通れない都市計画。④観光化によって経済的には潤う一方で観光客のマナーがたびたび問題になっています。そして⑤グローバル化による固有の文化の消失。いずれも文化遺産を守るために避けては通れない問題であり、なかでも観光などは文化遺産が文化遺産としての価値が高まれば高まるほど、脅威との共存が困難になっていく問題だといえます。
本書の第 I 部で、ユネスコで長年事務局長を務めてこられた松浦晃一郎氏の講演が収録されています。ユネスコが文化をどのように捉えているか、というそもそもの部分から、文化遺産を保護するためのさまざまな課題を多角的に分析、紹介しています。また、全体像や背景をしっかり学んでほしいと語りかけます。私たちは、世界遺産そのものへの憧れだけではなく、歴史や背景、現代における問題点などをしっかりと学び、理解を深めていくことも必要なのではないでしょうか。
本書は、世界遺産に興味のある方にはもちろん、文化財を保護する立場にある関係者の方々にぜひおすすめしたい書籍です。
<前のコラム | 次のコラム> | バックナンバー