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格差と貧困をめぐる議論を「社会的排除」概念でとらえる
生活保護基準の引き下げが検討されています。低所得世帯の支出額と生活保護世帯の受給額を比べ、生活保護世帯のほうが高い基準にあるということがその理由のようですが、比較の対象とされたいわゆるワーキングプアなどの低所得者層からは「私たちを基準に生活保護費を引き下げるのはおかしい」との声があがっています。低所得世帯・生活保護世帯はいずれもぎりぎりの状況で生活していることにかわりはなく、働いている人より高いからとの理由で保護基準を引き下げることがはたして妥当なのか首をかしげてしまいます。
生活保護受給者、ホームレス、ワーキングプアなどの貧困がクローズアップされるいま、「社会的排除」という概念で問題をとらえる動きがさかんになってきています。
「社会的排除」とはどういう概念なのでしょうか。『社会的排除/包摂と社会政策』第5章によると「人びとが社会に参加することを可能ならしめる様々な条件(具体的には、雇用、住居、諸制度へのアクセス、文化資本、社会的ネットワークなど)を前提としつつ、それらの条件の欠如が人生の早期から蓄積することによって、それらの人びとの社会参加が阻害されていく過程」(131頁)という定義です。それは食料や日用品、あるいはテレビや冷蔵庫など生きるうえで必要なものが十分でないということだけにとどまらず、例えば選挙への参加や公共施設の利用ができない、親戚や友人との交流がない、ボランティアや社会奉仕活動に参加していない、などさまざまな面において社会とのつながりが阻害されている状態です。
「シリーズ・新しい社会政策の課題と挑戦」第1巻『社会的排除/包摂と社会政策』は社会的排除概念がもともと使われ始めたヨーロッパでの議論を包括的に整理し、それが日本でどう生かされようとしているのかを、ホームレスや不安定雇用の若者、無年金者などの事例から検証しています。格差と貧困をめぐる近年の日本の議論を把握するのに有益な骨太な一冊です。既刊の第2巻『ワークフェア』とあわせてご覧ください。
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